吸血鬼

 

深い深い闇の漆黒の髪。紅い紅い、血の瞳。鋭く尖った、牙。

 人は彼らを、吸血鬼と呼ぶ。

 

ω

 

 パーティは、山奥の古い洋館で行われていた。よく殺人事件の現場として使われる、暗く寒々しい雰囲気の館だが、何しろ中にいるのが吸血鬼。…殺人が、起きないはずもなかった。

 

「お次は赤い髪に褐色の肌の人間!5000からどうだ!」

「5500!」

「いや、6500!」

 

 あちこちで声が上がる。司会の男の腕の先では、商品(・・)である人間の青年がぐったりと虚ろな目をしていた。人間(・・)()オークション(・・・・・・)である。この洋館は、それだけのために資産家の吸血鬼が建てたのだ。若くて、出来れば女の方が値が高い。美しいこともまた、高額の条件だ。血を飲む、以外にも飾るという目的で買う者もいるのだから。

 

「おい、ルビー。またお前は()()買わないつもりか?」

「…ええ。ボクにはまだ、必要ないみたいですから」

 

 人間を物としか見ない年長の吸血鬼は、馬鹿にしたような目でルビーを見ていた。きっと『買う勇気がない』や、『金を持っていない』などという方に考えているのだろう。だが本当は違う。ルビーの家は古くから続く名家。周囲に伝えるつもりもないので、知っている者も数少ない。それに、ルビーが人間を買わない理由、それはもういるからだ。ルビーに常に血液を供給してくれる人間。それも純粋で美しく、優しい少女。ルビーは彼女のために生きていた。彼女が死ぬ時には、自らにも死をと思うほど、大切に思っている。けれど一つ困ったことがあった。純粋(・・)。それは吸血鬼に伝わる隠語。『上質(・・)()血液(・・)()持つ(・・)人間(・・)』という意味である。彼女はルビーにだけその血を与えると言った。それでも吸血鬼にとって、人間の意志など関係ない。ルビーが恐れているのはそこだった。人間を攫うのは、吸血鬼の常套手段だ。もし誰かが自分のもとから彼女(・・)()奪い去った(・・・・・)ら、自分はきっと生きて(・・・)()いられない(・・・・・)だろう。

 

「さて、次は今日の目玉商品だ!!」

 

 司会の男は高らかにそう叫ぶ。先ほどの青年はもう売れたらしく、この会場にはいなかった。いや、もしかしたら姿が変わっているだけで、いるのかもしれない。例えば、パーティ会場の隅の方。命亡き者の遺体の山の中、など。

 

「茶色の髪、藍色の瞳の純粋(・・)な少女!」

「痛いったい!何ばするとね!?」

「…え?」

 

 聞き覚えのある声に、先ほどまでは余裕な表情を崩さなかったルビーも流石に声を上げた。ステージの方を見るとそこには、いつも傍らにいる少女、いるべき少女が掴まれた腕を擦りながら立っていた。

「…サファイア…」

「何であたしがこげなとこに来ないかんと!?家に帰して!」

 

 サファイアは堪えきれないように声を上げた。司会の手をはずそうと必死にもがいている。その腕には、縄か何かで縛られたような痕。とても、痛々しかった。

 

「サ…っ!!」

 

ルビーは呼びかけようとする自分を必死に抑えた。争いは嫌いだ。彼女は純粋(・・)。絶対に買い手がつく。争いを大きくしないためにも、ルビーはサファイアを買い取った者を潰そうと決めた。だが。

 

「離してっち言いよると!自分で立つことぐらい出来るったい!!」

「うるさいよ、人間!」

 

 ビシッと音がした。その音と同時に、サファイアが小さく声を上げる。声にならない悲鳴を。と、客達がざわめき始めた。くんくんと辺りの匂いを嗅ぐ。もちろん、ルビーも気づいていた。甘く、優しく、食欲をくすぐる匂い。

 

「血だ…。本当に純粋な人間か!」

「買うぞ!オークションを始めろ!!」

 

 オークションが始まり、たくさんの客が我先にと手を上げる。それに怯えたサファイアが、再び抵抗した。そしてまた、ビシッ。

 限界だった。

 争いを、ルビーは嫌っていた。汚れること、命が消えることが嫌だから。けれどそれも、最も嫌なことの前では無意味だった。すなわち、サファイアが傷つくこと。

 

「もう、いい」

 

 サファイアの生きる糧となれ。

 

ω

 

 いつのまにか、サファイアは意識を失ってしまっていた。きっと、自分が引き起こした状況に耐えられなかったのだろう。ルビーも嫌だった。服や手、髪が汚れてしまったから。つい先ほどまで、オークションに騒いでいた者たちの命は、全て自分が狩りとってしまった。赤黒い血溜まりがルビーを囲んでいる。自分の腕に、その身を預けるサファイアに、ルビーは優しい笑みを向けた。

 

「ごめんね。…サファイア」

 

 ボクは、キミにしか興味がないんだ。

 そしてそれは逆に言えば、サファイア以外はどうなっても構わない、と言うこと。それが例え、自分の命でも。

 

「ボクはキミのために生きるから」

 

 キミはボクの腕の中にいて。ずっと。…生きている限り。






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相互お礼として、蒼月ヤミ様より小説頂きました!!!

はわわわわわっ!!!
何かすごくキュンってきますよう!!


サファイアは大切なヒト。
それ以外はただの生物、または物。
ルビーにはサファイアしかいらない。
それがルビーの愛、なんですよね。

なんかよくわかんないコト言ってますが(爆)、
とてもイイと思いました!!

ホントに素晴らしいお礼、ありがとうございました!!!